AI inside、長崎県の医療DX実証実験に参画―FAX処理を自動化し月50時間の業務削減を実現

AI inside、長崎県の医療DX実証実験に参画―FAX処理を自動化し月50時間の業務削減を実現

AI inside株式会社が、長崎県で進められている「医療DX実地検証プロジェクト」に技術協力企業として参画し、同社のAIエージェント「DX Suite」が採用されたことを発表した。このプロジェクトは地域医療の業務効率化と質の向上を目指す取り組みで、2025年10月24日開催の第29回日本遠隔医療学会学術大会で実践報告が行われた。

深刻化する地域医療の現場課題

日本の医療現場は今、複数の課題に直面している。超高齢化による医療コストの増大、診療報酬の実質的な抑制、医師の高齢化と人材不足が重なり、現場の負担は年々増している。さらに近年はサイバー攻撃への対策強化も求められ、医療従事者の業務負荷は限界に近づいている。

厚生労働省は医療DXや遠隔医療の推進を掲げているものの、地域医療の実情とのギャップは大きい。こうした状況を打開するため、長崎県では医療・介護・行政・技術企業が連携し、現場主導で実践的な解決策を検証するプロジェクトが立ち上げられた。AIとRPAを活用した業務自動化、現場の実務課題への対応、セキュリティ対策という三つの柱で、持続可能な地域医療の仕組みづくりを進めている。

FAX処理の自動化で大幅な時間削減

実証実験では、AI insideの「DX Suite」を使って、FAXで届く紹介状や診療情報提供書の処理業務を自動化した。地域の中核病院では毎月300通以上の緊急性の高い文書がFAXで送られてくるが、これまで職員がスキャナーで読み取り、電子カルテに手入力する作業が日常的に発生していた。この手作業による負担は月間で50時間以上に及んでいたという。

今回の取り組みでは、クリニックから送信されるFAXをクラウドFAXで受信し、「DX Suite」でデジタルデータ化した後、電子カルテへの自動登録と証跡保存を実現した。これにより従来のスキャンや手入力作業が大幅に削減され、緊急の入院依頼への対応スピードが向上。病棟業務の効率化や看護師の残業負担軽減にもつながる効果が確認された。

FAXや紙文書による情報伝達は多くの医療機関で今も続いており、情報連携の遅れは全国的な課題となっている。今回の実証は既存のインフラを活かしながらAIを段階的に導入する現場主導のモデルとして評価されており、全国の医療機関に応用可能な先進事例として注目されている。

AIで実現する持続可能な地域医療

AI insideはこの取り組みを、単なる業務効率化ではなく地域医療の持続可能性を支える社会的プロジェクトと位置づけている。AI技術を活用した文書のデジタル化を通じて、すべての人が公平に医療を受けられる社会の実現を目指すとともに、データを基盤とした医療の質の向上を推進していく方針だ。

同社は今後も地域医療や行政との連携を強化し、AIによる医療DXの社会実装を進めることで、より良い社会の実現に貢献していくとしている。

DX Suiteについて

「DX Suite」は、データ入力業務の前後工程をまとめて自動化するAIエージェント。独自開発の文字認識AI(AI-OCR)による高精度な読み取りと、データ構造化技術を強みに、多様なフォーマットの帳票や書類をデジタル化し、業務システムへの連携を容易にする。現在、政府機関や地方公共団体、民間企業など6万ユーザー超に導入されている。

出典:https://inside.ai/news/2025/1118_medical-dxpilot-project